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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)461号 判決

原告 柿野龍夫

右訴訟代理人弁護士 児玉幸男

当事者参加人(昭和四六年(ワ)第五、九五一号事件) 大一物産こと 木村泰三

右訴訟代理人弁護士 桜井公望

同 桜井千恵子

当事者参加人(昭和四七年(ワ)第四六一号事件) 和田禎成

右訴訟代理人弁護士 川上三郎

同 青柳健三

被告 日本エタニットパイプ株式会社

右訴訟代理人弁護士 根本好夫

主文

一、当事者参加人和田禎成と原告および当事者参加人木村泰三との間において、豊護謨化学株式会社が被告に対し昭和四五年八月二一日から昭和四六年一月二〇日までの間に売渡した三六〇万六、五八四円のゴム製品売掛代金債権が当事者参加人和田禎成に帰属することを確認する。

二、右債権が原告に帰属しないことの確認を求める当事者参加人和田禎成の訴えを却下する。

三、被告は、当事者参加人和田禎成に対し、三六〇万六、五八四円およびこれに対する昭和四七年一月二七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

四、原告および当事者参加人木村泰三の請求をいずれも棄却する。

五、訴訟費用中原告と被告との間に生じた分は原告の負担とし、当事者参加人木村泰三の参加により生じた分は同参加人の負担とし、当事者参加人和田禎成の参加により生じた分は原告、被告および当事者参加人木村泰三の負担とする。

六、この判決第三項は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、(一)原告の請求の趣旨

1.被告は、原告に対し、三六〇万六、五八四円およびこれに対する昭和四六年二月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

3.仮執行の宣言

(二)原告の請求の趣旨に対する被告の答弁

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

二、(一)参加人木村の請求の趣旨

1.参加人木村と原告との間において、豊護謨化学株式会社(以下豊ゴムと略称する)が被告に対し、昭和四五年九月二五日から同年一〇月八日までに売渡した一〇三万九、九八七円のゴム製品売掛代金債権を参加人木村が有することを確認する。

2.被告は、参加人木村に対し、一〇三万九、九八七円およびこれに対する昭和四六年七月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3.参加人木村の参加により生じた訴訟費用は原告および被告の負担とする。

4.第2項につき仮執行の宣言。

(二)参加人木村の請求の趣旨に対する原、被告の答弁

1.参加人木村の請求を棄却する。

2.参加人木村の参加により生じた訴訟費用は参加人木村の負担とする。

三、(一)参加人和田の請求の趣旨

1.参加人和田と原告および参加人木村との間において、豊ゴムが被告に対し昭和四五年八月二一日から昭和四六年一月二〇日までに売渡した三六〇万六、五八四円のゴム製品売掛代金債権を参加人和田が有することを確認する。

2.原告を債権者、豊ゴムを債務者、被告を第三債務者とする東京地方裁判所昭和四六年(ル)第六〇二号債権差押および転付命令申請事件の債権差押および転付命令により原告に転付された四〇〇万円の債権(ただし、豊ゴムが被告に対して有する昭和四五年八月二一日から同年一一月二〇日までに納入した水道管用ゴム継手リングの売掛代金債権)が原告に帰属しないことを確認する。

3.被告は、参加人和田に対し、三六〇万六、五八四円およびこれに対する昭和四七年一月二七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

4.参加人和田の参加により生じた訴訟費用は原告、被告および参加人木村の負担とする。

5.第3項につき仮執行の宣言

第二、当事者の主張

一(一)原告の請求原因

1.原告は、債権者を原告、債務者を豊ゴム、第三債務者を被告とする東京地方裁判所昭和四六年(ル)第六〇二号債権差押および転付命令申請事件において、昭和四六年二月一六日、豊ゴムが被告に対し昭和四五年八月二一日から同年一一月二〇日までの間に売渡した水道管用ゴム継手リングの売掛代金債権四〇〇万円(弁済期は、毎月二〇日締切り、翌月一五日一五〇日の約手払いの約)につき、債権差押及よび転付命令の発付を受け、右決定正本は、昭和四六年二月一七日第三債務者の被告に、同月一九日債務者豊ゴムにそれぞれ送達された。

2.しかして、豊ゴムの被告に対する右売掛代金債権の昭和四五年八月二一日から同年一一月二〇日までの間における現存額は三六〇万六、五八四円である。

3.よって、原告は、被告に対し、右被転付債権三六〇万六、五八四円およびこれに対する右弁済期限後である昭和四六年二月二〇日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)原告の請求原因に対する被告および参加人らの答弁

請求原因事実は全部(ただし、被告は、原告主張の債権差押および転付命令正本が豊ゴムに送達されたことは知らない。)認める。

(三)参加人和田の抗弁

原告は、原告と豊ゴム間の東京法務局所属公証人坂本謁夫作成昭和四六年第五五号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本を債務名義として、本件債権差押および転付命令を申請したが、右公正証書は次の理由により無効であるから、その被転付債権を取得することはできない。すなわち、

(1)右公正証書には、請求債権の表示として、原告の豊ゴムに対する昭和四五年八月二〇日付の貸付金債権五〇〇万円(弁済期は同年一二月二〇日、損害金は日歩八銭二厘)と記載されているが、原告は、豊ゴムに対し五〇〇万円を貸付けたことはなく、右記載は虚偽であり、右公正証書は、実体上の権利関係を欠くものであって、無効である。

(2)また、右公正証書は、昭和四六年一月九日に、債務者豊ゴムの代表者代表取締役を渡鹿島七郎として作成されているが、右渡鹿島は、それより先昭和四五年一二月二〇日に豊ゴムの代表取締役を解任されているから、右公正証書は、債務者を代表すべき権限のない者の嘱託により作成されたものであって無効である。

(3)仮にそうでないとしても、右渡鹿島の代理人として、右公正証書の作成嘱託に当った落合武は、渡鹿島名義の偽造の委任状および印鑑証明書を利用してこれをなしたもので、正当な代理権を有しないから、右公正証書は、無権代理人の嘱託に基づいて作成されたもので、無効である。

(四)参加人和田の抗弁に対する原告の答弁

1.抗弁(1)の主張は争う。原告は、豊ゴムに対し、本件公正証書記載のとおりの貸付金債権を有する。

2.同(2)、(3)の主張は争う。

(五)原告の再抗弁

1.豊ゴムの代表取締役渡鹿島の解任登記がなされたのは昭和四六年二月三日であり、本件公正証書が作成された同年一月九日当時は、右解任登記は未了であって、原告は同人の解任の事実を知らなかったから、同人による公正証書の作成嘱託は、商法一二条により有効である。

2.仮にそうでないとしても、右渡鹿島の代理人として本件公正証書の作成嘱託に当たった落合武は、昭和四四年六月一〇日豊ゴムの代表取締役に就任しているものであって、豊ゴムを代表する権限を有するものであるから、本件公正証書の作成嘱託につき債務者豊ゴムの代表権限に欠けるところはない。

(六)原告の再抗弁に対する参加人和田の答弁

再抗弁1.2項の主張はいずれも争う。原告と豊ゴム間の前記公正証書の作成嘱託については、横田信隆が原告の代理人となっているが、同人は、昭和四四年一二月以来、豊ゴムの子会社であって、これと事務所を共同にする豊護謨製造株式会社の監査役であり、参加人和田が昭和四五年八月三一日豊ゴムに対し六〇〇万円を貸し付けた際、個人として、同人が代表社員である合名会社糸信とともに豊ゴムの連帯保証人となっており、しかも、渡鹿島の解任に代って、豊ゴムの代表取締役に就任した竹中信夫の実弟であるから、右公正証書作成嘱託当時、すでに渡鹿島が豊ゴムの代表取締役を解任されており、その代表権限を有しないことを知悉していた。

二(一)参加人木村の請求原因

1.豊ゴムは、昭和四五年一〇月八日、参加人木村に対し、豊ゴムの被告に対する同年九月二五日から同年一〇月八日までの間におけるゴム製品の売掛代金二五〇万円の債権(弁済期は毎月二〇日締切り、翌月一五日一五〇日の約手払いの約)を譲渡した。

2.しかして、豊ゴムは、被告に対し、同年一〇月八日付内容証明郵便をもって、右債権譲渡の通知をなし、右通知はその頃被告に到達した。

3.しかるに、原告は、昭和四六年二月右債権につき債権差押および転付命令を得たとして、右債権が参加人木村に帰属することを争っている。

4.なお、豊ゴムの被告に対する右売掛代金債権の昭和四五年九月二五日から同年一〇月八日までの間における現存額は一〇三万九、九八七円である。

5.よって、参加人木村は、原告に対し、右債権を参加人木村が有することの確認を求めるとともに、被告に対し、右一〇三万九、九八七円およびこれに対する右弁済期限後である昭和四六年七月二三日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)参加人木村の請求原因に対する原告の答弁

1.第1項の事実は否認する。参加人木村は、豊ゴムに融資するに際し、白紙に豊ゴムの代表者印を押捺せしめ、これを無断使用して、被告に対し債権譲渡通知をなしたものであって、参加人木村主張の債権譲渡の事実はない。

2.第2項の事実は知らない。

3.第3、第4項の事実は認める。

(三)参加人木村の請求原因に対する被告の答弁

1.第1項の事実は知らない。

2.第2ないし第4項の事実は認める。

(四)参加人木村の請求原因に対する参加人和田の答弁

1.第1、第2項の事実は知らない。

2.第3、第4項の事実は認める。

(五)参加人和田の抗弁

仮に、参加人木村主張のとおりであるとしても、参加人和田は、その請求原因において述べているとおり、豊ゴムの被告に対する同一の債権を豊ゴムから譲受け、豊ゴムの右債権譲渡通知は、豊ゴムの参加人木村に対する債権譲渡の通知とともに、同日である昭和四五年一〇月八日被告に到達しているから、参加人らは、相互に相手方を排斥して、被告に対し、自己が右債権の債権者であることを主張できない。

(六)参加人和田の抗弁に対する参加人木村の答弁争う。

三(一)参加人和田の請求原因

1.豊ゴムは、昭和四五年一〇月八日、参加人和田に対し、豊ゴムの被告に対する昭和四五年八月二一日から同年一〇月八日までの間における水道管用ゴム継手リング等の売掛代金二〇〇万円の債権(弁済期は毎月二〇日締切り、翌月一五日一五〇日の約手払いの約)を譲渡した。

2.しかして、豊ゴムは、被告に対し、同日付内容証明郵便で右債権譲渡の通知をなし、右通知は同日被告に到達した。

3.さらに、参加人和田は、債権者を参加人和田、債務者を豊ゴム、第三債務者を被告とする東京地方裁判所昭和四七年(ル)第一〇六号債権差押および転付命令申請事件において、昭和四七年一月一七日、豊ゴムの被告に対する昭和四六年一月二〇日現在の売掛代金債権三六〇万六、五八四円(弁済期は毎月二〇日締切り、翌月一五日一五〇日の約手払いの約)につき、債権差押および転付命令の発付を受け、右決定正本は、翌一八日第三債務者である被告に、同じ頃債務者豊ゴムにそれぞれ送達された。

4.しかるに、原告および参加人木村は、それぞれその請求原因において主張するとおり、右債権の全部または一部につき権利を主張し、参加人和田がその債権を有することを争っている。

5.なお、豊ゴムの被告に対する右売掛代金債権の昭和四五年八月二一日から同年一〇月八日までの間における現存債権額は一〇三万九、九八七円であり、昭和四六年一月二〇日現在における債権額は三六〇万六、五八四円である。

6.よって、参加人和田は、原告および参加人木村に対し、右三六〇万六、五八四円の債権を参加人和田が有することの確認、ならびに、原告に対し、原告主張の被転付債権が原告に帰属しないことの確認を求めるとともに、被告に対し、右三六〇万六、五八四円およびこれに対する弁済期日後である昭和四七年一月二七日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)原告の本案前の主張

参加人和田は、昭和四八年四月二一日の本訴第一五回口頭弁論期日において、訴の変更として、原告主張の被転付債権が原告に帰属しない旨の確認を求める旨申立てているが、右申立は、昭和四六年七月三日の本訴第一回口頭弁論期日以来すでに一年九月を経過し、証拠調もほとんど終了した段階においてなされたものであって、訴訟手続を著しく遅滞せしめるものであるから、民事訴訟法二三二条、二三三条に則り、右変更を許さない旨の裁判を求める。

(三)参加人和田の請求原因に対する原告の答弁

1.第1項の事実は否認。

2.第2項の事実は知らない。

3.第3ないし第5項の事実は認める。

(四)参加人和田の請求原因に対する被告の答弁

1.第1項の事実は知らない。

2.第2項の事実は認める。

3.第3項中決定正本が被告に送達された事実は認めるが、その余の事実は知らない。

4.第4、第5項の事実は認める。

(五)参加人和田の請求原因に対する参加人木村の答弁

1.第1ないし第3項の事実は知らない。

2.第4、第5項の事実は認める。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、参加人木村の請求について

参加人木村との間においては全部、原告との間においては官公署作成部分の成立につき争いがなく、原告との間におけるその余の部分および参加人和田との間においては全部につき参加人木村本人尋問の結果により真正に成立したと認める乙第三号証、参加人木村本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、参加人木村は、大一物産の名称で金融業を営むものであるが、昭和四五年九月二五日、豊ゴムに対し二五〇万円を貸付け、その際、右債権担保の趣旨で、同社が右債務を弁済期に履行しないときは、同社が被告に対して有する売掛代金債権の譲渡を受けて、右債務の弁済に充当するとの了解の下に、右債権譲渡通知に使用するため、内容証明便用紙に豊ゴムの住所、社名、代表者名のゴム印および代表者印を押捺せしめて、これが交付を受けたこと、その後、同年一〇月八日になって、豊ゴムが手形不渡を出すおそれが発生したため、参加人木村は、豊ゴムにはあらためて連絡することなく、右内容証明郵便用の用紙を使用し、同日付で、右用紙の空白部分に、豊ゴムの被告に対する売掛代金債権二五〇万円を参加人木村に譲渡した旨の債権譲渡通知書を作成して被告に発送し、右書面は同日頃被告に到達した(右譲渡通知がその頃被告に到達したことは被告との間には争いがない。)ことを認めることができる。

しかしながら、右債権譲渡は、右認定の事実から明らかなとおり、右二五〇万円の貸付金債務が弁済期に履行されないことを条件とする条件付の譲渡契約と解すべきところ、右債務の弁済期が昭和四五年一〇月二〇日頃であることは、その本人尋問において参加人木村の自認するところであるから、右債務についての期限の利益の喪失約款の存在につき格別の主張立証のない以上、右譲渡通知がなされた当時においては、未だ債権譲渡の効果は発生していないものといわざるをえない。したがって、右譲渡通知は、債権譲渡がなされる以前に、債権譲渡がないのになされたものであって、有効な対抗要件たりえないものというべきであるから、参加人木村は、これにより、右債権譲渡について対抗要件を具備したものとはいえないので、その債務者である報告、ならびに、後記認定のとおり、右同一債権につき譲渡あるいは差押、転付命令を受けた参加人和田に対し、右債権の譲渡を対抗しえないものというべきである。

よって、参加人木村の本訴各請求は、いずれも失当として棄却を免れない。

二、原告の請求について

1.原告主張の請求原因事実は、全部(被告との間で、転付命令正本が豊ゴムに送達された事実を除き)当事者間に争いがない。

2.ところで、参加人和田は、まず、右執行の基本となった公正証書記載の貸付金債権は実体上存在しないから、右公正証書は無効である旨主張するが、公正証書の内容をなす権利または法律関係が存在しないとか、または、それが証書の記載と吻口しないとかの如き事由は、公正証書の無効を招来するものではないというべきであるから、他の方法をもって争うは格別、右主張は、主張自体失当であり、採用の限りではない。

3.しかしながら、被告および参加人木村との間においては成立に争いがなく、参加人和田との間においては公文書であるから真正に成立したと推定すべき甲第一号証および成立に争いのない丁第三号証によれば、前記執行の基本となった公正証書すなわち東京法務局所属公証人坂本謁夫作成昭和四六年第五五号金銭消費貸借契約公正証書は、昭和四六年一月九日、豊ゴムの代表取締役を渡鹿島七郎として作成されていることが認められるところ、成立に争いのない丁第四号証および証人竹中信夫の証言によれば、右渡鹿島は、昭和四五年一二月二〇日豊ゴムの代表取締役を解任され、翌四六年二月三日付でその旨の登記がなされていることが認められるから、右公正証書作成嘱託当時、渡鹿島は、すでに豊ゴムを代表すべき権限を有しなかったことが明らかであり、右公正証書の作成嘱託は、豊ゴムについては無権限者によってなされたものというほかはない。

原告は、商法第一二条をいうが、右規定は、本来実体法上の取引について第三者保護を目的とする規定であって、訴訟行為としての性格を有する公正証書の作成嘱託(執行認諾の意思表示)の如き行為については適用されないものと解するのを相当とするから、原告の善意、悪意を問うまでもなく、右主張は採ることができない。

4.また、前掲丁第三、四号証によれば、右公正証書の作成嘱託に当っては、落合武が右渡鹿島の代理人の資格で関与しており、右落合も当時豊ゴムの代表取締役の地位にあったことを認めることができるが、この場合、落合はあくまで渡鹿島の代理人たる資格で関与しているものであって、豊ゴムの代表者としての権限に基き、その資格において行為をしているものではないから、右渡鹿島の代表権限に欠けるところがある以上、その代理人である落合に豊ゴムを代表すべき権限があったとしても、前記結論に異同をきたすものではない。

5.そうだとすれば、右公正証書は、豊ゴムを正当に代表すべき権限のない者の嘱託により作成された無効のものであるというべきであるから、このような無効な公正証書に基いて発せられた債権差押および転付命令も、また当然に無効であって、原告は、右転付命令による被転付債権を取得するに由ないものというべきである。したがって、原告の請求もまた理由がない。

三、参加人和田の請求について

1.まず、原告は、参加人和田が原告主張の被転付債権が原告に帰属しない旨の確認を求める請求の追加をしたことが、著しく訴訟手続を遅滞せしむべき訴の変更に当るとして異議の申立をなしたが、右訴の追加的変更が請求の基礎に変更のないものであることは、その主張に徴し疑いのないところであり、また、これにより新たな証拠調べを要する等訴訟手続の遅滞を来すものでないことは本件訴訟の経過に照らして明らかであるから、右主張は採用することができない。

2.次に、成立に争いのない丁第一、二号証、原告および参加人木村との間においては官公署作成部分の成立につき争いがなく、原告および参加人木村との間におけるその余の部分、参加人和田との間においては全部につき、証人板木優の証言により真正に成立したと認める乙第五号証、証人板木優の証言ならびに弁論の全趣旨によれば、(1)参加人和田は、朝日工業の名称で金融業を営むものであるが、昭和四五年八月三一日、豊ゴムに対し六〇〇万円を、弁済期は同年九月三〇日、利息は年一割五分との約で貸付け、これについて東京法務局所属公証人横山一郎作成昭和四五年第九七三一号金銭消費貸借契約公正証書を作成したこと、(2)そして、その際、併せて、右債権担保の趣旨で、豊ゴムが右債務を弁済期に履行しないときは、同社が他に対して有する売掛代金債権の譲渡を受けて、右債務の弁済に充当するとの約で、右債権譲渡通知に使用するため、内容証明郵便用の用紙に豊ゴムの代表取締役印を押捺せしめて、これを交付せしめたこと、(3)ところが、豊ゴムは、約定の弁済期に右債務を履行しなかったので、参加人和田は、豊ゴムに連絡した結果、豊ゴムが被告に対して有すると称していた二六〇ないし二七〇万円の売掛代金債権のうち二〇〇万円について譲渡を受けることの承諾をえて、前記内容証明郵便用の用紙を使用し、同年一〇月八日、同日付で豊ゴムの被告に対する売掛代金債権二〇〇万円を参加人和田に譲渡した旨の債権譲渡通知書を作成して被告に発送し、右書面は同日被告に到達したこと(右債権譲渡通知が右同日被告に到達したことは被告との間においては争いがない。)、(4)その後、参加人和田は、前記公正証書に基づいて申立てた東京地方裁判所昭和四七年(ル)第一〇六号債権差押および転付命令申請事件(債権者は参加人和田、債務者は豊ゴム第三債務者は被告)において、昭和四七年一月一七日、債務者豊ゴムが第三債務者被告に対して有する昭和四六年一月二〇日現在のゴム製品の売掛代金債権三六〇万六、五八四円について債権差押および転付命令の発付を受け、右命令正本は翌一八日第三債務者被告に、同じ頃債務者豊ゴムにそれぞれ送達されたこと(以上(4)の事実は原告との間において、転付命令正本が被告に送達されたことは被告との間において、争いがない。)をそれぞれ認めることができる。しかして、前記債権譲渡通知が被告に到達した当時の譲渡債権の債権額および右転付命令正本が被告に送達された当時の被転付債権の債権額がそれぞれ参加人和田主張のとおり一〇三万九、九八七円および三六〇万六、五八四円であり、その弁済期の約定も主張のとおりであることは当事者間に争いがないから、参加人和田は、いずれにしても、右三六〇万六、五八四円の債権を取得するに至ったものというべきであり、被告は、参加人和田に対し、右三六〇万六、五八四円およびこれに対する約定の弁済期後である昭和四七年一月二七日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

3.なお、参加人和田は、右債権が参加人和田と原告および参加人木村との間において参加人和田に帰属することの確認を求めるとともに、右債権が原告に帰属しないことの確認を請求しているが、右両者は、全く同一の事柄の表裏の関係にすぎないものであり、前者を訴求することにより、十分その目的を達しうるものであって、これとは別に後者についても訴を提起する利益はないものと解すべきであるから、右債権が原告に帰属しないことの確認を求める旨の参加人和田の訴は、訴の利益を欠くものであって、不適法として却下すべきものである。

四、結び

以上の次第であるから、原告および参加人木村の請求は、いずれも理由がないので、これを棄却し、参加人和田の請求は、以上認定の限度で理由があるのでこれを認容し、その余は不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、第九四条を、仮執行の宣言については同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 落合威)

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